物語
「お兄ちゃん・・・」
誰・・・?
僕を・・・呼んでるの・・・?
* * * * * *
季節は文月。山の緑はそろそろ色を変え始める。
山の麓に一人暮らしをしていた仙太郎は、ある日不思議な夢を見た。
一人の年若い少女が、自分に向かってしきりに助けを求める夢。
なぜだか少女の事が気にかかる。・・・赤の他人のはずなのに・・・。
仙太郎は衝動的に、彼女を探す旅に出た。
* * * * * *
行く先々で、見えたもの。
蒼き滝は、何を教えてくれた?
白き森は、何を語ってくれた?
黒き土地は、何を見せてくれた?
紅き社は、何を応えてくれた?
空は、何を与えてくれた?
* * * * * *
知る度に、何かを失う。
分かる度に、胸が苦しくなる。
君は何故泣いていて
君は何故怒っているのか
今の僕では、分からないから
僕は一体、何故ここにいるんだろう。
僕にはきっともう、何も残っていないはずなのに。
お願い、僕から
何もかも奪ってしまって下さい
そして全て
花びらと共に、散ってゆけばいい
二度と舞うことが無いように。